• ビッグデータベースボールは面白かった
  • アイデアを導入してもらうということの重要性と難しさを教えてくれる

日記

アストロボールの Amazon レビューに書いてあった,

シグは「人間が気づくことは、人間が数値化できる」「数値化できれば、そこから学ぶことができる」という信念を持っていた。

が私の信条にあまりにも合致していたので読んでみようかと思っていたところ,ビッグデータベースボールの方がより新しい視点があっておもしろいと書いてあったのでビッグデータベースボールを優先することにした.

ちょうどおどろきの金沢も読みたいと思っていたので,Kindle Unlimited に期間限定で加入してサッと読むことに決める. Kindle Unlimited のような subscription サービスは入って利用している間は気分が良いけど,使わなくなって放置してしまったり,想定していない支払いが発生するとしばらくブルーな気持ちになってしまうのであまり得意ではないですね.

ビッグデータベースボールとその感想

2013 年ごろの Pirates の躍進をデータによる戦略の革命と位置付けて,その時の関係者の話を取材してまとめた本.

基本的には

  • 守備シフト
  • フレーミング
  • 2-seam による GB% 増加

の導入に成功して,その結果久しぶりのプレーオフ進出を果たしたということをまとめている. 野球は戦略勝ちすると 7:3 くらいで有利をとれるということを端的にクリアに表している. ただ,名将は同条件で 5.5:4.5 に持っていくということもまた事実だと思う. この本は記者がまとめていて,発見にまつわる裏話も面白いし,プレーオフ進出にまつわる話も情熱的に書かれているので読んでいて楽しい.

よくよく本を読んでいくと,Pirates が守備シフトを導入する前に Rays が導入していることに触れられていたりもするが, これは Pirates スタッフが協力的であったことを示しており,読者にとってはありがたいかぎりである. 一方で,公開しないということも,自分のクレジットを犠牲にして,チームひいては多くの選手たちを守る勇敢な行為だと感じた. (公開の場がなかっただけかもしれないが)

2013 年から 10 年経った今,MLB では守備シフトは禁止,フレーミングは審判の精度向上,2-seam はフライボール, といったようなアンチテーゼがそれぞれに対して存在しているが, 日本の野球ではいまだに伝統のポジショニングが大事にされていることもある. これはある意味で野球に対して真摯に取り組んでいないと見ることもできるし,まだまだ伸び代があるとも考えられる. Pirates が 10 年前に真摯に向き合ったデータ解析チームと現場のコミュニケーションという課題を 解決できないままここまで来てしまっているのかもしれない. 本文中にカーディナルスでの導入の失敗にも触れられており,日本独自の問題でないことは伝わってくる. Visualization が一つ大きなヒントとして語られていたが,プレゼンテーションの課題を解決する能力こそが今必要とされているものなのかもしれない.

一方で,現場の持つ疑問をデータによって解決,ないしは裏付けていく作業が行われていたことも語られており,大きな感銘を受けた. 研究現場では日々当然に行われていることであり,常識をデータで裏付けることはそれ自体が立派な価値であるが, それを軽視してセンセーショナルな結果ばかりを求め,論破の気持ちよさを拠り所にしているアナリストもいるという事実がたまに私の心を曇らせる.

ただ,そんな心の曇りを吹き飛ばすくらい登場人物の情熱を感じたし,それに結果もついてきたので本としての後味がとてもよかった. 10 年後の 2023 年, Pirates は再び快調な4月を送っている. データによる戦略は対策され,その価値を毀損することもあるが,一方でデータによる新しい戦略が常に必要とされていることの裏返しでもあるため,日々アップデートして現場に浸透させていく重要性のみがそこには残っている.

その他何冊かとその感想

Kindle Unlimited で日本人著者の野球にまつわる本が何冊かあったから読んでみました.

内容はそこまで悪くないけど,自分が一次情報源でもないのに秘密主義な感じが漂っていて 秘密主義のYPbot を思い出した.

この bot も Twitter の bot 停止の煽りを受けているのが切なくも面白かった.