• “アメリカン・ベースボール革命: データ・テクノロジーが野球の常識を変える” が正式タイトル
  • 原題と違いすぎる (原題: The MVP Machine: How Baseball’s New Nonconformists Are Using Data to Build Better Players)
  • 投手視点の話はかなり実践的なことが書いてあって面白いです
  • 打者視点はわからないということが包み隠さず書いてあります
  • 翻訳の質はよくないです

感想

本書はマネーボールやビッグデータベースボールと同様に 野球で勝つという目的に向かってさまざまな最適化を進めているところにあります。 マネーボールでは過小評価されている選手に焦点を当て、 ビッグデータベースボールでは “常識的” 戦略に目を向け直した一方で、 本書はデータを用いた育成に力が入れられています。 英題では直接的にそれが示されていてとても良いタイトルであることがわかります。

トレバーバウアーやカイルボディにまつわる話も多いので、そこらへんの歴史を簡単に把握するのにとてもよかったです。 現代の投高打低の野球に至るまでの歴史がわかりやすいので、現場と見ているだけ(わたしみたいな)人のギャップを埋めてくれる本だと思います。 データを活用して MLB を戦ったプレイヤーたちの成功、あるいは失敗が丁寧に取材されており、組織的な成功を収めるためのヒントも散りばめられていると思います。 また、ビッグデータベースボールにてパイレーツが成功を収めたシンカーによる戦い方がさっくり否定されているのもおもしろいです。

わたしの解釈を以ってこの本をまとめると以下の3点が特に重要だと思います。

  • データという客観的なフィードバックを活用することで現状を可能な限り把握することが重要である
  • データは解釈がなければ意味をなさないので、フロントオフィスによる解析能力、フロントオフィスと選手の間の橋渡し能力がより必要になる
  • 各選手は野球選手の前に一人のである (プライバシーやコミュニケーション問題)

選手の育成手法においてある程度の方向性が確立されてくることで一定水準の資金力がないチームは足切りされていくのかなと感じています。 ラプソードやブラストモーションなどのツールの手助けなしで練習していくことは、深い霧の中を闇雲に歩いて “何か” を探すことに近いでしょう。 これではミクロでの成功は望めず、成功する人が出るまで待つ以外の中長期的戦略は取れないでしょう。 最近の日本のアマチュア野球でも資金力のあるチームが成功を収めているように見えます。 これは資金力のあるチームの方が設備的にも優れているのに加えて、戦略面でもアドバンテージを取りやすいことが一端ではないかと思います。(野球の最先端の戦略・ドリルは圧倒的に英語のコンテンツが多い) 育成・戦略手法が枯れてこない限りはこの潮流は続いていくと予想しています。 ただ、日本のアマチュア野球では、ピッチデザインの概念は乏しく、得点期待値を下げる戦い方が続いている印象ですので、どのチームが最初に抜け出すかが見どころだと思います。